第6章 人称代名詞の3格・4格(それと、2格)

人称代名詞とは「私」「君」「あなた」などの人称による人間の呼び方で、第1章「基本動詞 seinとhaben」で主語として用いられるときの1格の形を示しました。
人称代名詞の3格と4格は、人間を目的語とした動詞で頻繁に使われるので、しっかりと 覚えておきましょう。
(都合により、説明の順番を4格→3格→2格とします)

☆人称代名詞4格の用法

Die jüngere Schülerin hat ihn mit aller Kraft in die Luft getretet.
◆その下級生の女の子は彼を思いっきり蹴り飛ばした。
Du bestellst es, die Verkäufer haben auf dich ein scharfes Auge ab folgendes Mal*.
それを頼むと、次から店員が目を光らせてくるよ。
Wie kühn seid ihr, dass ihr uns nicht beachtet!
我々を無視するとはなんたる度胸だ!
Ich denke, dass dieser Schulbadeanzug sehr gut sie kleidet!
◆このスク水、彼女にとっても似合うと思うよ!
* ab(〜以降)は本来3格の名詞を従える前置詞であるが、時や数量を示す無冠詞の名詞を従えるときは1格や4格を支配する。

<人称代名詞の4格(左が1格、右が4格の形)>
ich - mich
du - dich
Sie - Sie
er - ihn
sie(彼女) - sie
es - es
wir - uns
ihr - euch
sie(彼ら) - sie

人称代名詞の4格は、動詞の直接目的語となっていることを示すために用いられ、大抵の場合 「〜を」と訳されます。しかし、上記の4番目の例文では、「彼女に」という訳になっていて、 若干の例外規則があることが覗えます。

直接目的語の概念というのは、「もえふつ」で先にフランス語の文法解説に目を通していただいた 方ならある程度理解ができていると思いますが、その動詞が含む助詞的な意味合いの語要素 (〜を、〜に)などに直接従うことのできる目的語ということです。
このことを考えやすくするために、“4格だと大抵「〜を」という訳になる”という 認識を一度捨ててみましょう。

2番目の例文の bestellen(頼む・注文する)を例に取った場合、この動詞の意味を 辞書で調べてみると、「[何4]を注文する」という風に書かれているはずです。
この場合、「〜を注文する」というのが動詞の意味で、 残りの[何4]の部分が目的語になります。
つまり、「〜を」という訳は本来動詞の意味のほうに既に含まれているため、これに直接 かかることのできる目的語が直接目的語と解釈され、4格の形で示されるのです。

このとき、自分自身のために注文するのであれば4格の目的語のみを文中で用いると良いですが、 自分以外の人のために「注文する」場合には、その相手を3格の形で表してやらなければ なりません。詳しくは、下の3格の用法に続きます。

☆人称代名詞3格の用法

Sie widerspricht mir plötzlich ohne Sinn.
◆彼女は訳もなく突然私に(向かって)異議を唱えてくる。
Warum muss ich dir meine wichtige Zeit hingeben.
◆なんで俺がお前(のため)に貴重な時間を割いてやらなきゃいかんのだ。
Ich sperre euch ab diesem Monat* das Taschengeld!
◆今月からお前らの小遣いをストップする!
Das ging ihm nach, was sie beim Abschied sagte.
◆彼女が去り際に言ったことが、彼は気掛かりだった。
* 先ほどとは違って、指示冠詞 dieser があるのでabは3格支配。

<人称代名詞の3格(左が1格、右が3格の形)>
ich - mir
du - dir
Sie - Ihnen
er - ihm
sie(彼女) - ihr
es - ihm
wir - uns
ihr - euch
sie(彼ら) - ihnen

人称代名詞の3格は、動詞の間接目的語となっていることを示すために用いられ、大抵の場合 「〜に」と訳されます。しかし、上記の3番目・4番目の例文では、「お前らの」「彼は」という 訳になっていて、こちらも4格に同じく若干の例外規則があります。

先ほどの4格に対して、3格は1つ目の例文のように「〜に向けて」、または2つ目の例文のように 「〜のために」という意味合いを含んでいることが多く、für や nach などの前置詞に 人称代名詞を後置させても同様の訳が得られるような場合に用いられます。

3格の目的語は4格の目的語とともに用いられる場合が多く、4格の項で説明した bestellen に おいて主語が「注文した」物を届ける「主語とは違う相手」や、主語が物をあげたり 買ったりする場合の「主語とは違う相手」などは3格で示し、注文するものや買うもの(動詞 本来の目的語となる名詞)を4格で表します。
2つめの例文の場合、動詞 hin|geben の直接目的語、すなわち4格が[meine wichtige Zeit]と なり、間接目的語、すなわち3格が dir となります。

☆人称代名詞2格の用法(例文はありません)

<人称代名詞の2格(左が1格、右が2格の形)>
ich - meiner
du - deiner
Sie - Ihrer
er - seiner
sie(彼女) - ihrer
es - seiner
wir - unser
ihr - euer
sie(彼ら) - ihrer

人称代名詞の2格は今日の口語表現ではほとんど使われませんが、参考までに説明して おきます。

2格の形を見ると、「あれ、これどっかで見たな」と思うでしょう。
そうです、所有冠詞となんとなく雰囲気が似ていますね。

しかし、人称代名詞の2格は所有冠詞とはまったく別の働きをします。
所有冠詞が名詞の前に置かれて付加語的に用いられ「誰それの」と所有の意味を表すのに 対し、人称代名詞の2格にはまったくといっていいほど所有を表す用法がありません。

人称代名詞の2格は、動詞が2格の名詞を支配する場合や、statt などの2格支配の前置詞 に後置されて statt unser(私達の代わりに)となるように、「2格として支配されている」こと を示すためだけに起こる格変化で、これといって特別な意味を持ちません。

ぽいんと、だよ。

4格なら「〜を」、3格なら「〜に」と考えてもほとんどの場合はすんなりと訳することが できるけど、重要なのは、文中で使われている動詞が「4格の目的語を支配する」か 「3格の目的語を支配する」かということだよ。

ドイツ語の目的語については、和訳から格の働きを推測するんじゃなくて、動詞から それに見合った格を引き出すことができるようになったほうがいいと思うよ。

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