第7章 否定文

Das interessiert mich nicht.
◆興味ないな。

否定文は、例文のように単純な文の場合は、原則として否定語 nicht を文末に置くことで 作ることができます。
これは、例文がもし肯定文だったとすれば、

Das interessiert mich.
(それは私の興味を引く→(私はそれに)興味がある)

という意味になりますが、この文意全体を否定するために、文の最後に nicht が置かれま す。「これこれこうだ」と肯定的に述べてきた内容を、文の最後で「以上の内容は 真実ではありません。ウソです」というふうになんちゃって的な感覚で、かつドッキリ企画の ネタばらし的な感覚で否定して文を組め括る、やんちゃで小生意気なヤツが nicht だという訳ですね。

さて nicht の性格を知っていただいたところで、みなさんにはもう一つショックを受けて もらわねばなりません。実はこの nicht は、必ずしも文末に置かれるという訳ではないのです。

冒頭で「単純な文の場合は」と書きましたが、ではその反対だとどうか。
無論、複雑な文になってくると nicht が文末に来ないという例もあるということですね。

 

まずその例として、最初に挙げられるのが「語否定」というものです。
語否定というのは、ある語句のみを否定することによって、「そのものは真実ではないが、 ほかのものは真実と考えられる」ということを示す否定の仕方のことをいいます。
いまいちわかりづらい、という方のために例を挙げてみましょう。

Er mag nicht diese Stimmespielerin.

この文では、nicht が文末ではなく、目的語である diese Stimmespielerin の前に置かれて いますね。
この文と、

Er mag diese Stimmespielerin nicht.

この文はどう違うと思いますか?

まずは後に挙げた、nicht が普通に文末に置かれている方から訳してみましょう。
mögen は「〜が好きだ」という意味ですから、「彼はこの声優さんが好きだ――というのは ウソです」で、すなわち「彼はこの声優さんが好きではない」という解釈になりますね。
後の文の場合は、これ以上解釈を拡大する余地はなく、これで言いたいことをすべて言い尽くして しまっていることになります。

では前の文の、nicht が「この声優さん」の手前に置かれている文の解釈はどうなるのかというと。 この場合、nicht は「彼はこの声優さんが好きだ」という文意全体を否定していることにはならず、 単に「この声優さん」のみを否定していることになります。
つまり、彼が好きでないのはあくまで「この声優さん」であり、他の声優さんの演技については 嫌悪感を覚えなかったり、時にはハアハアしていることだってあるかもしれないということに なるのです。

nicht がある語句の前に置かれて「語否定」を行なうとき、文全体の解釈としては、「〈語否定 されたもの〉についてはウソだけど、それ以外のものは本当だよ」という意味合いが含まれます。
したがってこの場合、前の文は「彼はこの声優さん好きではない(けど他の 声優さんは好きです)」という訳になるというわけですね。

 

次に nicht が文末に来ない例として、述語的に使われる形容詞、副詞的に使われる形容詞、 または状況を示す前置詞句が文末にある場合、というのが挙げられます。

5章「名詞と形容詞の語尾変化」の「ぽいんと、だよ」コーナーでも説明したように、 ドイツ語の形容詞には「名詞の前に置かれて付加語的に名詞を修飾する」用法、「主語と 同格の述語となる」用法、「副詞的な意味で使われる」用法の3つがあります。
このうち、付加語的に名詞を修飾する用法以外の場合に、否定語の nicht はその形容詞の 前に置かれます。

Er ist darüber nicht kenntnisreich.
(彼はそれに関して博識でない)

Ich mag solches nicht persönlich.
(私はそういうのが個人的に好きではない)

また、主語の状態を表すために同格のように取られる前置詞句についても、nicht がその 語句の前に置かれます。

Er war schon nicht in dem Zimmer.
(彼はすでにその部屋にはいなかった)

 

もう一つ nicht が文末に来ない例として、12章で説明する「枠構造」と「副文」があります。 ここではまだ「枠構造」や「副文」について触れていませんので、ここではこれらの規則が 文中に現れた場合、nicht は原則として「ベベ2」になるものと考えてください。(要するに、 文末から2番目ということですね)

ただし、枠構造や副文などの規則が現れた文中で、さきほど説明した「述語的に用いられる 形容詞」「副詞的に用いられる形容詞」「状況を示す前置詞句」が登場する場合には、 nicht は文末から2番目の位置ではなく、さきほどの規則のほうが優先されて、形容詞や 前置詞句の前に置かれます。

また、「語否定」を行ないたい場合もこちらのほうの規則が優先されて、nicht は文末から2番目 の位置ではなく、語否定したい語句の直前に置かれることになります。

--*--*--

さて、否定文を作るために使われる語というのは、何も nicht だけではありません。
英語の単熟語にも rarely(めったに…しない)、hardly(ほとんど…ない)のように 否定語の not を使わなくても否定の表現を作ることができるものがあったように、ドイツ語 にもこれらに対応するものがあります。

それらをざっと紹介しましょう。

kaum/selten/wenig
 
 
nie/niemals/
keineswegs/keinesfalls
nimmer/nie und nimmer/
nimmermehr
niemand
nichts
nirgends(wo)
kein bisschen/
nichts weniger als 〜/
(nicht im geringsten)
(nicht das Geringste)

 ほとんど〜ない
 (kaum/wenig は程度、
 selten は頻度について用いる)
 一度も(決して)〜ない
 
 一度も(決して)〜ない
 (nie/niemalsよりも強い否定)
 誰も〜ない
 何も〜ない
 どこに(どこへ)も〜ない
 全然〜ない
 
 * この2つは nicht を使っているので
 一応カッコ書きで^^;

もちろん、4章「冠詞」で紹介した否定冠詞 kein も nicht を使わない否定表現をつくる 語に含まれますね。

他にも口語的表現や会話表現などで「全然〜ない」や「決して〜ない」といった表現は 辞書を引けばたくさん出てくるのですが、なんでもないような普通の名詞が会話では この種の否定表現に使われたりと、このへんに関しては実際ドイツ語を話す地域に行って 会話に混じってみないことには知りえないものだと思います。

* 例えば einen Dreck(ぜんぜん〜ない)といったような表現がありますが、この Dreck と いうのはあまりいい言葉ではなく、「汚い物」などの意味で使われるものです。

かといって今すぐドイツなんかに行けるかよ、という方が大半だと思いますので(^^;)、 上記に示した表現は少なくとも覚えておかれるとよいのではと思います。

もっと例文!
  • Er glaubt noch an solch einen Dienst von Hausmädchen nicht.
    彼はいまだにメイドさんがそのようなサービスをしてくれることを信じていない
  • Ich bekomme nicht Zorn.
    キレてないっすよ。
    (* 無冠詞の名詞が動詞と組み合わせて熟語的に使われる場合も、名詞の直前に nicht がくる)
  • Die Vorsitzende scheint das gewünschte Buch nicht zu erreichen.
    その委員長はどうやら欲しい本に手が届かないらしい。
    (* zu不定詞句がコンマで分かれない場合も nicht はその手前)
  • Ich sorge dich nicht mehr!
    あんたなんてもう知らないんだから!
  • Letzte Kindergartenkleine wachsen zu seelisch, sie sind kein bisschen niedlich.
    最近の幼稚園児はませすぎていてちっとも可愛くない
  • Niemand wollte sehen, dass er mit seinem Willen die Puppe manipulierte.
    彼が自らの意志で人形を操るのを誰も見ようとはしなかった。
  • Sie ist bis 18 Jahre den Zug noch nie eingestiegen.
    彼女は18歳になるまで一度も電車というものに載ったことがなかった。
  • Er erscheint selten zum Klub trotz des Leiters.
    彼は部長だというのにめったに(しか)クラブに姿を現さない
  • Der Feind der Welt verstand wenig die Geschichite von dem Schatten.
    世界の敵はその影の言うことをほとんど理解していなかった。
ぽいんと、だよ。

■否定語の nicht を置く場所についてまとめると、

1) 枠構造のない、単純な文の場合→いちばんうしろ
2) 語否定/述語的・副詞的な形容詞/状況を表す前置詞句→その直前
3) 枠構造・副文→うしろから2番目

で、(2) が (1) と (3) より優先されるんだよ。

■否定文で gar を使うと、意味が強調されるよ。

Der Brust von ihr ist gar nicht üppig.
(彼女の胸はちっとも大きくない)

■否定語を否定すると、「二重否定」といって強い意味の肯定になるよ。

Er kommt ohne seinen MP3-Spieler nicht zur Schule.
(「彼はMP3プレーヤーを持たないで学校に来ない」→「彼は学校にいつもMP3プレーヤーを持ってくる」)

Wir können von ihm nicht reden, ohne uns an das Ereignis zu erinnern.
(「我々はその出来事を思い出さずに彼のことを話せない」→「我々は彼のことを話すといつもその出来事を思い出す」)

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