第10章 前置詞と指示副詞

ドイツ語の前置詞は、ただ単に名詞の前に置かれて時間的・空間的な意味や理由・関連などの さまざまな意味合いを持たせるだけではなく、その使われ方に応じて、後に置かれる名詞の 格を変化させます。

例えば für(〜のために;英語のfor)という前置詞は専ら4格の名詞を後にとるので、 für den Mann, für die Frau, für das Kind... のように冠詞類や形容詞 などがある場合はそれに従って格を変化させなければなりません。

とにもかくにも、ドイツ語の前置詞と、その前置詞の後に置かれる名詞の格、それから英語 ではどの前置詞にあたるかをずらーっと並べてみます。

an (3/4)
auf (3/4)
hinter (3/4)
in (3/4)
neben (3/4)
über (3/4)
unter (3/4)
vor (3/4)
zwischen (3/4)
 
aus (3)
 
bei (3)
mit (3)
nach (3)
 
seit (3)
von (3)
 
zu (3)
 
außer (3)
entgegen (3)
entsprechend (3)
gegenüber (3)
zuwider (3)
 
durch (4)
für (4)
ohne (4)
um (4)
 
bis (4)
gegen (4)
 
trotz (2)
wärend (2)
wegen (2)
ausschließlich (2)
außerhalb (2)
diesseits (2)
infolge (2)
innerhalb (2)
jenseits (2)
oberhalb (2)
statt (2)
unterhalb (2)

 〜に(付着)、〜で(所属)[英語の on]
 〜の上に[英語の on]
 〜のうしろで[英語の behind]
 〜の中で[英語の in]
 〜の近くで[英語の near]
 〜の上のほうに、〜に関して[英語の over, on]
 〜の下に、〜に満たない、〜のもとに[英語の under]
 〜の前に[英語の in front of]
 〜の間に、[英語の between]
 
 〜から(内から外への動作・由来・原因・材料)
 [英語の from, of]
 〜の際に、〜の側に[英語の at, by]
 〜とともに、〜を用いて[英語の with]
 〜に向かって、〜のあとに、〜によれば
 [英語の to, after, according to]
 〜以来[英語の since]
 〜から、〜のうちの(比較の最上級)、
 〜によって(受動態の動作主)[英語の from, of, by]
 〜のところへ、〜のための(目的)、〜に至るほど
 [英語の to(ward), for]
 〜の外に、〜を除いては、〜の他にも[英語の out of]
 〜にもかかわらず
 〜に応じて(* 名詞の後ろに置かれる)
 〜と向かいあって
 〜に背いて[英語の against]
 
 〜を通り抜けて、〜を介して[英語の through]
 〜のために、〜の割に[英語の for]
 〜なしで[英語の without]
 〜のまわりに、〜と引き換えに、〜に(時刻)、〜だけ(差比較)
 [英語の around, at, by]
 〜までは[英語の till, until]
 〜に対して
 
 〜にもかかわらず[英語の despite]
 〜の間(じゅう)[英語の during]
 〜のために(原因)[英語の because of]
 〜を除いて[英語の excluding, except for]
 〜の外側で、〜以外の時に[英語の out of]
 〜のこちら側に
 〜のせいで(* infolge von (3) となる場合も)
 〜の内側で、〜以内に[英語の within]
 〜の向こう側で[英語の beyond]
 〜の上のほうに
 〜の代わりに、〜ではなくて[英語の instead of]
 〜の下のほうに

はい、おびただしい数です。(吊)
前置詞の章を設けたのはこれがやりたかったがためではない、と言ってしまうと嘘になります(ぉ)。

左側の、前置詞の右側にふってあるカッコ内の数字が、後に置かれる名詞の格です。
2格をとる前置詞もあるし、3格も、4格も…あれ、どうして3格と4格の両方をとる前置詞がある のだろう。こう思った人はさすが、上に挙げた前置詞の数に屈していませんね。

3格と4格の両方をとる前置詞があるのは、その前置詞が従える名詞について、その位置を示す のか(3格)、移動を示すのか(4格)によって意味が変わってくるためです。

たとえば、3格/4格の両方をとる前置詞の中から unter を例にとってみましょう。

Er hat sich unter seinen Tisch versteckt, weil die Mutter gekommen ist.

「オカンが来たので、彼は机の下に隠れた」という文です。
この場合、前置詞 unter が従える名詞 (sein) Tisch が所有冠詞の格変化によって4格の 形で示されています。なぜ4格なのかというと、いままで椅子に座っていたか、床に寝そべって いたかという状態であった彼が、オカンが来るのを察知し、さっと机の下に「移動」するという シーンを描いているからです。

これに対して、

Er versteckt sich unter seinem Tisch, weil er die Mutter fürchtet.

「彼はオカンを恐れて机の下に隠れている」という文です。
さきほどの例文と比べてみて、彼の状態にどういった違いがあるか考えてみてください。
この場合、この文が叙述されている段階で彼はすでに机の下に身を隠しているのであって、 その状態を踏まえて、彼がオカンに怯えるとあるシーンが描かれています。
移動する様子ではなく、もともとある「位置」を示す場合、unter が従える名詞は このように3格になります。

つまり、この例の場合、彼の様子を (1) 机の下に隠れる前の状態、(2) 机の下に隠れるという 行為、(3) 机の下に隠れた状態、の3つに分けるとすると、(1) から (3) に変わるために 行なわれる (2) において unter は4格を、(3) の状態の間は3格を支配するということに なります。

したがって、3/4格をとる前置詞で、4格をとるのは主語となる人や物が「これこれこういう 状態になる」ときであり、3格をとるのは「これこれこういう 状態である」ときだというわけですね。

--*--*--

次に「指示副詞」というものの説明をします。

指示副詞というのは、前置詞が従える名詞がすでに文中のそれ以前の部分で登場している場合に、 同じ名詞の反復使用を避けるために用いられる副詞のことをいいます。
早い話が、「それのために」だとか、「それの上に」だとかいう言い回しを作る単語だと 考えてもらうとよいかと思います。

指示副詞は da- または dar- という形で示され、このうしろに前置詞がそのままくっつきます。 くっつける前置詞の頭文字が子音の場合は da-、母音の場合は dar- という形になります。

例)
bei → dabei(その時に、そのそばに)
mit → damit(それと一緒に、それを使って)
vor → davor(その前に)
auf → darauf(その上で)
über → darüber(それについて)
um → darum(その周りに)

指示副詞は何も前置詞のあとに既出の単語が置かれた場合の代用となるだけでなく、12章で 説明するdass文や、19章で説明するzu不定詞句の代用になって、「そのことのために」などと いう表現をつくったりもします。

ただし、なんでもかんでもくっつけてよいというわけではなく、すべての前置詞において 指示副詞の形がある訳ではありません(特に2格の名詞を後に従える前置詞には、 指示副詞の形をもつものがありません)。その都度辞書で確認して、da-/dar- の形が載っている ものだけを使うようにしてください。

もっと例文!
* 以下の例文はすべて指示副詞を使った例です。
  • Das Glück geht nicht zu mir, also gehe ich dazu.
    幸せは歩いてこないので、それに向かって歩いていきます。
    * da = der Glück
  • Es geht darum, dass fast niemand dieses Vorhaben unterstützt.
    問題はこの企画に賛同する人間がほとんどいないということだ。
    * dar = dass文全体
  • Sie lehnt ab, mein Sklave zu werden. Aber sie ist dafür begabt.
    あの娘はあたしのドレイになるのを嫌がってるけど、けっこう素質あるのよねえ。
    * da = mein Sklave
  • Die Kellnerin zieht einen so kurzen Rock an, dass ihre Hose uns daraus seht.
    そのウエイトレスはとても短いスカートを穿いているので、我々には彼女のおぱんつがその下からのぞいて見えてしまう。
    * dar = ein(en) so kurzen Rock
  • Er zeigte nach der Kamera die appetitliche Speise, sein mitnehmender Hund schnappte jäh danach.
    彼がカメラに向かってその美味しそうな料理を見せると、彼の連れの犬が突然それにぱくりと喰いついた。
    * da = die apptitliche Speise
  • Warnen Sie Ihre Tochter davor, denn es wimmelt von vielen Sonderlingen hierherum letzthin.
    この頃この近くで変質者がうようよしているから、娘さんには用心するよう言っておいてくださいね。
    * da = viele(n) Sonderlinge(n)
ぽいんと、だよ。

■「学校へ」とか「うちへ」みたいに、前置詞の後に置かれる言葉が「あの」「その」「この」 というふうに特に限定されることのないときに、前置詞が特定の定冠詞と合体するよ。

an … am(+男性/中性3格 dem), ans(+中性4格 das)
auf … aufs(+中性4格 das)
bei … beim(+男性/中性3格 dem)
durch … durchs(+中性4格 das)
für … fürs(+中性4格 das)
in … im(+男性/中性3格 dem), ins(+中性4格 das)
um … ums(+中性4格 das)
von … vom(+男性/中性3格 dem)
vor … vors(+中性4格 das)
zu … zum(+男性/中性3格 dem), zur(+女性3格 der)

* 以下は話し言葉で。
vor … vorm(+男性/中性3格 dem)
unter … unterm(+男性/中性3格 dem), untern(+男性4格 den),
unters(+中性4格 das)
hinter … hinterm(+男性/中性3格 dem), hintern(+男性4格 den),
hinters(+中性4格 das)
über … überm(+男性/中性3格 dem), übern(+男性4格 den),
übers(+中性4格 das)

■指示副詞はふつう、くっついてる前置詞の部分にアクセントを置いて発音される (例えば damit は「だっと」)けど、da(r) が指しているものを とくに強調したいときは da(r) の部分が強く発音されるんだよ。

■参考までに、おにいちゃんの辞書から抜き出した、da(r) と前置詞を組み合わせて 作ることができる指示副詞を並べてみるね。

dabei <bei
dadurch <durch
dafür <für
dagegen <gegen
dahinter <hinter
damit <mit
danach <nach
daneben <neben
daran <an
darauf <auf
daraus <aus
darein <in(* in の後に置かれた4格の名詞の代わりになるよ)
darin <in(* in の後に置かれた3格の名詞の代わりになるよ)
darüber <über
darum <um
darunter <unter
davon < von
davor < vor
dazu < zu
dazwischen < zwischen

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