第14章 直説法における過去時制と未来時制

ドイツ語の文は、文中で用いられる定動詞の活用グループによって3つの「法」と呼ばれる 規則(叙法)に分類され、それぞれ、話し手がある事実をもとにしてその状況をありのままに 叙述するための叙法を「直説法」、話し手が正確でない、または事実に反する物事について 述べるための叙法を「接続法」、話し手が聞き手に要求や命令を与えるための叙法を「命令法」 と呼びます。

このうち「命令法」は既に第9章でも説明したような文の形をつくり、「命令文」の別名として 扱っても差し支えないと思います。

さて、ここでは3つの叙法のうちの「直説法」について触れてみます。
直説法には、時称(物事が起こったタイミングによる分類)として現在・過去・未来・ 現在完了・過去完了・未来完了の6つがあります。

☆現在完了

Du hast mich gehauen! Obwohl ich niemals von Vater gehauen worden bin!
◆俺をぶったな!親父にもぶたれたことないのに!
Ans Ohr hat Sahne gehaftet!
◆クリームが耳についてしまいましたあ
Eine Liebesgeschichite hat im Zug angefangen.
◆一つの恋物語が電車の中で幕を開けた
Es hat das Gehalt binnen einem Tag verbraucht, das er mit Mühe verdient hat.
◆彼は苦労して稼いだ給料を一日のうちに垂れ流してしまった
Ich habe billige auslandische Datenträger gekauft, ich bin mit halben Brandarbeiten gescheitert.
◆安価な外国製の記録メディアを買ったらかなりの記録作業で失敗してしまった

現在完了は、現在に時点において、ある動作・行為などが完了していることを示すための 時称で、主に会話でよく使われる表現です。

基本的には動作の完了を示す時称であるため、「〜してしまった」と訳すのが正しいのですが、 日常会話における過去の表現の要でもあるため、単に「〜した」と訳される機会も少なく ありません。

現在完了の表現は助動詞として heben または sein 使い、

haben/sein の現在形 + 動詞の過去分詞

という形で示します。
英語では have のみで完了時称を表現できたのに、どうして2つも助動詞が必要なんだ、 という疑問は、フランス語を先に勉強された方なら感じないかもしれませんが、やはり 英語の次にドイツ語と進まれた方にとっては気になるところ。

大半の動詞については、助動詞として haben を用いるといいのですが、主語の移動や 状態の変遷などを示す動詞には sein を助動詞として用いてあげなければならないという 決まりがあります。

完了時称で助動詞に sein をとる動詞としては、次のようなものがあります。

gehen(行く) * -gehenとなる動詞も含む。
kommen(来る) * -kommenとなる動詞も含む。
sein(〜である)
werden(〜になる)
fallen(落ちる)
steigen(上る)
bleiben(残る、〜のままでいる)
erscheinen(現れる、刊行される)
verschwinden(消える)
sterben(死ぬ)
scheitern(失敗する)
sinken(沈む、低下する)
schwimmen(泳ぐ) * 厳密には heben/sein の両方をとるが、sein の傾向

☆過去・過去完了

Wir hatten die Ehe versprochen durch ,,die Ehebescheinigung.''
◆俺達は(あのとき)「ケッコンしょうめいしょ」を通じて結婚を約束していたんだ。
Er hatte durch einen 1,2m Sprung*1 ein großes Abenteuer getan.
◆彼は(そのとき)1.2メートルの距離をジャンプすることで大いなる冒険をしたのだった。
Als ich von der Arbeit zurückkam, war sie in einen guten Schlaf gefallen.
◆俺が仕事から帰ってきたときにはもう、彼女はぐっすりと眠ってしまっていた
Er war ein Mädchen geworden, als er den nächsten Morgen*2 aufstand.
◆次の日の朝彼が起き上がったときには、彼は女の子になってしまっていた
Ich war wohl*3 einsam, nachdem Brudi auf der Dienstreise gegangen war!
◆おにいちゃんが出張に行っちゃったあと、あたしはとーっても寂しかったんだからね!

*1 何メートルのなんとか、何グラムのなんとか…という場合、数量と名詞を連続させる。eine 50t Bestie(50トンの怪獣)
*2 この4格の語句要素「den nächsten Morgen」は動詞の直接目的語ではなく、「副詞的4格」と呼ばれる表現で、単体で4格を用いると時間に関する副詞(句)的表現が得られる。
*3 この wohl は「心態詞」と呼ばれる語で、話者の気持ちを反映するため挿入される。

過去時称はその名の通り、定動詞を過去形に活用させることによって、 過去にある人物がある物事を行なったということを事実として とらえ、それを叙述するするときに使われる時称です。 しかし、先ほどの現在完了とは違って会話で使われることは少なく、 主に新聞や雑誌の記事、物語などで多く使われます。

会話では sein や haben、話法の助動詞などがよく過去形で用いられますが、 それ以外の動詞は3番目〜5番目の例文のように、もっぱら過去完了時制と一緒に使われます。

過去完了時制は

sein/habenの過去形 + 動詞の過去分詞

という形で表され、過去形と一緒に使われることによって、過去形で用いられた動詞よりも 前の時間に過去完了形で用いられた動詞の示す内容が起こっていたことが叙述されます。
つまり、過去形のほうの内容が起こったときには、既に過去完了形の内容は済んでしまって いることになるので、この意味では「過去のある時点から見た現在完了」と言えます。

☆未来・未来完了

Morgen werde ich meinen Curryreis essen können!
◆明日になればカレーが食べれるぞ!
Ihr werdet an die Stirn meine Faust bekommen, wenn ihr eure häuslichen arbeiten mit nichts Getanes bringt.
◆宿題を白紙の状態で持ってきたら、お前らのおでこにゲンコツを喰らわせちゃる。
Die rede geht's, dass eine Veranstaltung von den Zwillingsschwänzen in Bälde*1 gegeben werden wird.
◆噂によると、遠からずツインテールをテーマにしたイベントが開催されるそうですな。
Du bist mir damit nicht, wir werden es*2 machen!
◆つけてくれないとできちゃうよぉ!
Wenn ich mit euch zusammenbrechen kann, werde ich bis zum letzten die Organisation verraten.
◆君達とともに崩れられるのならば、僕は組織を徹頭徹尾裏切るだろう。
Bald wird ihre Intelligenz bis zum Grad einer Kindergartenkleinen sinken.
◆やがて彼女の知能は幼稚園児並のレベルまで低下するだろう。
Wirst du acht Tage vorm Termin dein neues Blatt vollendet haben bei diesem Zustand?
◆この調子でいけば締め切りの1週間前には新刊を仕上げられてるんじゃないか?
Alle Dunkelheit in deinem Herzen*3 wird verschwunden sein, wenn du von deinem natürlichen Gefühl lächelst.
◆キミがありのままの気持ちで笑顔になったなら、そのときにはもうキミの心のもやもやは全部消えてしまっているだろうね。

*1 Bälde の用例はこの in Bälde(近日中に)のみ。
*2 es は相関詞ではなく、漠然としたもの。ここでは中性名詞 Kind と考えてもらえるとわかりやすいかも。damit の da はもうおわかりですね。
*3 1格 Herz/2格 Herzens/3格 Herzen/4格 Herz。名詞単体で変な格変化をするので要注意。

未来時称も過去と同じ原理で、名前の通り現在よりも先の未来に起こる物事について叙述する ための時称のことをいいます。
未来時称の叙述にはもっぱら werden が助動詞的に使われ、

werden + 不定詞

の形で「〜するだろう」「〜する予定だ」という意味になります。

また、未来完了(例文では下から2つ)は、未来のある時点においてある動作・行為が 完了してしまっていることを示すための時称で、しばしば「〜までには」という意味の語句 (前置詞には bis を用いることが多い)を伴って、

werden + haben/sein + 動詞の過去分詞

の形で「(...までには)〜してしまっているだろう」という意味になります。
この未来完了の文を作る際、注意しなければならないのが語順です。
werden と haben/sein で作る枠構造の中に完了時制で枠構造をつくる heben/sein と 過去分詞が入ることになる訳ですが、この場合、動詞の過去分詞は必ず heben/sein の前に 置かれます。

たとえば一番下の例文を少し弄ってみて「そのときにキミの心のもやもやが全部消えてしま っているのは確かだね」という文を作ろうとすると、相関詞 es とdass文を使って

Es ist sicher, dass alle Dunkelheit in einem Herzen dabei verschwunden sein wird.

となり、第2位の語句要素として扱われていた wird がdass文の中で末尾に移動し、過去分詞 verschwunden と助動詞 sein を前に推し戻した状態になります。

ぽいんと、だよ。

■過去形は、過去基本形(kaufen → kaufte, kommen → kam など)に ich/er/es/sie で 無語尾、du で -st、ihr で -t、wir/Sie/sie で -n(子音で終わる場合は -en)の語尾がつく活用になるよ。

昔おにいちゃんがとある曲を作ったときに、その曲の歌詞で du gewann っていうミスをして しまってたけど、正しくは du gewannst だね。

* 余計なことを引き合いに出すんじゃない>聡子

■未来の助動詞の werden はもともと推量の意味で使われることが多いから、 期限を表す「〜(のころ)までには」という語句がないときは、未来完了がよく過去の推量に 化けることがあるよ。

たとえばおにいちゃんが示した例文の、未来のいちばん最後のやつ。
これには期限を表す言葉がないから、ラストの lächelst を過去形の lächeltest に 変えると、過去の推量で「キミがありのままの気持ちで笑顔になったときにはもう、 キミの心のもやもやは全部消えてしまっていたのだろう」というふうにも解釈できるよ。

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