第22章 接続法Iを用いた間接話法

Er behauptete wieder, er wolle in Wirklichkeit jemand nicht lieben.
◆彼は改めて現実世界で恋をするつもりはないのだと主張した。

14章「直説法における過去時制と未来時制」で触れた叙法の一つ、「接続法」のうち、I式 と呼ばれる規則に従って動詞を活用させると、引用符を用いて主語である人間の言ったことが そのまま表現される直接話法を、文章を叙述する立場からの視点で表現する間接話法に 言い換えることができます。

次の章で紹介する「非現実話法」でもいえることですが、そもそもドイツ語の接続法というのは フランス語のそれとはちょっと意味が違っていて、後者が「話者の感情を反映させるための 叙法」であるのに対し、前者は「事実の不確実性を示すための叙法」であるとされています。

そんな小難しい説明をされてもピンと来ない、という方もおられるでしょうから、ちょっと 噛み砕いてみます。
直説法では、話者が叙述する(会話では口頭で言う、文章では文字にして書く)すべて の内容について、話者はそれを事実だと認識しているという暗黙の了解があります。
一方の接続法では、話者が叙述する内容について「事実だ、確からしい」と認識している 必要はありません。というのも、話者はある物事について事実だと判断することが難しかったり、 事実の反対として「反実仮想」を提起したりすることがあるからです。
この間接話法も、文の主語となる人間が言う内容について、話し手はそれが「確実である」 「事実である」という認識を持つことが容易でない、ということから接続法で叙述される のです。

うーんまだわかんねぇや、というひとのために例文があります。
この例文の「彼」は「改めて現実世界で恋をするつもりはないのだ」と主張していますが、 これはあくまで「彼」の主張であって、たとえば「彼」をヲタク、この例文を話した人間を 一般人として考えたとすれば、一般人の考えとしては「恋こそ人生のメインイベントである」 というのが妥当でしょう。

そういった価値観や判断基準の違いがあるからこそ、話し手は文中の主語が「事実である」 としていることに対して、自分も同じく「事実である」という解釈をもつことはできません。 (双子なんかを考えればできるかもしれませんが…それはレアケースで。)

ゆえに話者は相手の言ったことを「不確実である」とせざるを得なくなり、この間接話法は 接続法を使って表現されるわけです。

--*--*--

一通り間接話法が接続法で叙述される理由を把握してもらったところで、いよいよ間接話法 を表現するための「接続法I式」の説明に入ります。

接続法には「I式」と「II式」というタイプがあり、後者は専ら次章で紹介する 「非現実話法」や丁寧な表現を作ります。
間接話法では前者を使いますが、このとき sein 以外のすべての動詞において 活用語尾 en( -eln/-ern で終わる動詞は n )を取り去った語幹に、ich/er/sie/es -e, du -est, ihr -et, wir/Sie/sie -en をつけた形が接続法I式の活用になります。

例) kommen の場合
ich komme(-en型規則活用動詞の場合、直説法と同じ)
du kommest
er/sie/es komme
ihr kommet
wir/Sie/sie kommen(直説法と同じ)

* sein のみ特殊な活用をします。
ich/er/sie/es sei
du sei(e)st
ihr seiet
wir/Sie/sie seien

sein 以外の動詞の場合、上に挙げたとおり、1人称単数の ich, 1人称複数 wir、 2人称単数/複数丁寧形 Sie, 3人称複数 sie でそれぞれ直説法と同じ形の活用になります。
この場合に、直説法ではなく接続法で叙述されているということをはっきりとさせるために、 代わりに「接続法II式」を使うことがあります。

例えば例文の er を3人称複数の sie に置き換えた場合、

Sie behaupteten wieder, sie wollen in Wirklichkeit jemand nicht lieben.

となり、wollen が直説法のときと同じ活用をしますね。
この場合に、接続法であることをはっきりと示すため、wollen が接続法II式の wollten で 代用されることがあります。
接続法II式の活用については、次章「接続法II式を用いた非現実話法」をご参照ください。

そのほか、間接話法の文は例文のように「彼は主張した」という提起の文と、それに続く 内容の部分についての文を並列させることが多いですが、dass文を使って表現する こともあります。

Er behauptete wieder, dass er in Wirklichkeit jemand lieben nicht wolle.

もっと例文!
  • Sie klagte, sie ekle sich vor mir.
    彼女は俺に、俺と居ると吐き気を催すと文句をつけてきた。
    (* ekeln の接続法I式。-eln/-ern型の動詞では el, er の e が落ちることがある)
  • Er schrie, was habe in einen solchen Zustand diese Stadt geändert.
    彼は何がこの街をこのような有り様に変えてしまったのだと叫んだ。
    (* 相手の発言部分が過去の内容だと、haben/sein の接続法I式+過去分詞 で「接続法過去」という形になる)
  • Sie sagte ihm mit der schläfrigen Stimme, sie frühstückten und gingen zur Schule.
    彼女は彼に眠たそうな声で、朝御飯を食べて学校へ行くよと言った。
    (* 後半の sie は3人称複数形。接続法I式では直説法と同形になるので接続法II式で代用されている)
  • Sie erklärt von ihrer merkwürdigen Handlung immer, sie empfange elektrische Wellen.
    彼女はいつも自分の奇妙な行動について、電波を受信しているのだと説明する。
ぽいんと、だよ。

■間接話法では「接続法I式」っていう形が使われるけど、この接続法I式で文章が書かれている 間は、次に直説法の文がくるまでずっと間接話法なんだよ。

Er sagte uns, gerade er sei der König der Welt. Er sei sehr wohlig. Er sei in der besten Laune. Wie gehe's uns. Wir auch seien so.

彼は私達に俺こそが世界の王者だ、すげえ気持ちいい、最高だ、お前らはどうだ、お前らもそうだろう、と言った。

■おにいちゃんは「相手の発言内容に対して事実だと認めることが難しい」って言ったけど、 まれに相手が言ったことに同意できたり、話し手の側にとっても事実だと認められるときは 直説法が使われることもあるよ。

Er sagt, er hat kein Geld jetzt.
(彼は、今は文無しだからなあと言っている[が、そのことについては俺も承知している])

印刷用ページを表示する